部屋の隙間と段差で緩やかに周辺環境に開く
名古屋市東部の市街地に建つ家族3人のための住処である。敷地は、全体で3mほどの高低差があり、周辺の環境に対して圧迫感が出ないように、擁壁などによる造成をしないで今ある高低差をそのまま活かして計画することを考えた。そのため、1階から2階そしてロフト階にかけて緩やかにつながるように細かく9つの床レベルを設定した。これらのステップをすこしずつ上がることで地面と途切れることなく2階へとつながるように計画した。その途中に、400mmの段差をベンチのような形で座れるようにして縁側とつなげたコーナーや、中2階の窓際には作り付けの机を置いた書斎コーナーなど、いくつかの段差を利用しながら、それぞれのコーナーが緑あふれる外部環境と心地よくつながる居場所となることを狙った。
また、床の緩やかな段差に対応するように、屋根も周辺の北垂れの傾斜に沿うように片流れの勾配屋根とし、北の道路側に対しては絞り込み、南の山側に対しては開くような配置として、斜面方向に視線が抜けることを意識した。
一方で、敷地東南の斜め方向には名古屋市の生産緑地があり、安定的な緑を室内から望むことができる。その生産緑地へ室内からも斜めに視線が抜けるよう寝室や浴室などの比較的小さな閉じた部屋を対角状に配置した。さらに、この対角配置を1階と2階でもズラして対角状に配置することで、周辺の緑を住居のさまざまなところから立体的に感じ取れるような工夫をした。
また、これらの小さな部屋はそのまま構造的な要素を担い、水平力を負担する耐力壁の構面となるが、それらが対角上に配置されているために、不連続な構面はところどころに鋼製窓枠や階段の踊り場など小さな建築要素と対応させながら応力を屋根構面まで伝達させ、バラバラだった力の流れを屋根の構面が繋げることで成立している。
床/屋根/壁という建築の3つの構成要素がそれぞれ特徴的な役割を持つことで、緩やかに環境に対して開くことを目指した住宅である。
所 在 地|愛知県名古屋市
主要用途|住宅
設計監理|吉村昭範、吉村真基
構造設計|中田琢史、金山美登里/リズムデザイン=モヴ構造設計事務所
施 工|丸長ホーム
写 真|谷川ヒロシ/ToLoLo studio